地球上の多くの生物において遺伝情報の継承と発現を担う高分子生体物質である。
●構成物質と二重らせん構造
DNA はデオキシリボース(五炭糖)とリン酸、塩基 から構成される核酸である。
塩基はプリン塩基であるアデニン(A)とグアニン(G)、ピリミジン塩基であるシトシン(C)とチミン(T)の四種類ある。
T。2-デオキシリボースの1'位に塩基が結合したものをデオキシヌクレオシド、このヌクレオシドのデオキシリボースの5'位にリン酸が結合したものをデオキシヌクレオチドと呼ぶ。
ヌクレオチドは核酸の最小単位であるが、DNAはデオキシヌクレオチドのポリマーである。
核酸が構成物質として用いる糖を構成糖と呼ぶが、構成糖にリボースを用いる核酸はリボ核酸 (RNA) という。
ヌクレオチド分子は、糖の3’位OH基とリン酸のOH基から水が取れる形でフォスフォジエステル結合を形成して結合し、これが連続的に鎖状の分子構造をとる。
ヌクレオチドが100個以上連結したものをポリヌクレオチドと言うが、これがDNAの1本鎖の構造である。
DNAには方向性があるという。
複製の際、DNAポリメラーゼは5'→3'末端の向きでDNAを合成する。
RNAの転写もこの方向性に従う。
2重鎖DNAでは、2本のポリヌクレオチド鎖が反平行に配向し、右巻きのらせん形態をとる(二重らせん構造)。
2本のポリヌクレオチド鎖は、相補的な塩基 (A/T, G/C)対の水素結合を介して結合している。
塩基の相補性とは、A、T、G、Cの4種の塩基うち、1種を決めればそれと水素結合で結ばれるもう1種も決まる性質である。
A/T間の水素結合は2個、C/G間は3個であり、安定性が異なる。
例外的に、特殊な配列が左巻きらせん構造をとる場合があり、これはZ型DNAと呼ばれる。
この相補的二本鎖構造の意義は、片方を保存用(センス鎖)に残し、もう片方は、遺伝情報を必要な分だけmRNAに伝達する転写用(アンチセンス鎖)とに分けることである。
また、二本鎖の片方をそのまま受け継がせるため、正確なDNAの複製を容易に行うことができるため、遺伝情報を伝えていく上で決定的に重要である。
DNA損傷の修復にも役立つ(詳しくは二重らせん)。
DNAの長さは様々である。
長さの単位は、二本鎖の場合 bp(base pair: 塩基対)、一本鎖の場合 nt(nucleotide: 塩基、ヌクレオチド)である。
●立体構造
細胞内のDNAには、原核生物やミトコンドリアDNAのような環状と、真核生物一般に見られる線状がある。
自然界のDNAは螺旋巻き数が理論値(1回転あたり10.4塩基)よりもほんの少し小さい。
線状DNAには問題は無いが、環状DNAではこの差による不安定を解消するために環にねじれが生じ、これをDNAの超らせん(または負の超らせん)という。
●DNAの化学的性質
2本のポリヌクレオチドを結びつける水素結合は不安定なため、沸騰水の中では離れて1本鎖になる。
しかしゆっくり冷ますとポリヌクレオチドは相補性から再び結合して元に戻る。
このようにDNAが1本鎖になる事を「DNAの変性」、元に復元する事をアニールという。
変性が50%起こる温度はTmと記され、A/T対が多いほど低い。
Tmは一価の陽イオン濃度が低い場合や、水素結合を遊離させやすい尿素やホルムアミドなどが存在すると下がる。
穏やかな方法で単離されたDNAは白色のフェルト状繊維で、そのナトリウム塩の水溶液は粘性が高く、流動複屈折を示す。
これは熱、酸、アルカリに容易に変性し、粘度は低下し、乾燥すると粉末となり、もはや繊維状になり得ない。
この変化から分子量は数百万から2万〜3万程度に下がってしまう。この化学組成はアルカリに対しては安定性が高いが、酸には弱く、容易にプリンを遊離する。
この変化に伴い、デソキシペントースのアルデヒド基が遊離し、シッフ試薬を赤紫に変色させる。
この呈色反応をフォイルゲン反応と呼び、これを利用して、DNAを含む核や分裂中の染色体を赤紫に着色して観察できる。
DNAの吸光度は塩基によって紫外線260nmを吸収極大としている。
この値は、塩基が接近しているほど小さい。塩基が極めて整然と、かつ接近している二本鎖DNAよりも、不規則に配列しているときの一本鎖DNAのほうが光を吸収する力は強い。
例えば、A260=1,00である二本鎖DNAと同濃度の一本鎖DNAについて、A260=1、37である(詳しくはDNAの巻き戻し参照)。
変性したDNA溶液から、未変性状態のDNA状態と同じDNAを作ることができる。
異なる分子種から得た一本鎖の試料を混ぜて再結合DNAを形成させる手法をハイブリッド形成という。
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