●解糖系の過程
段階4: 開裂
解糖系の最初の3つの反応はフルクトース1,6ビスリン酸を開裂させ、2当量の異なるトリオースリン酸を作り出すための準備である。
このステップでは、前の反応で生まれたフルクトース 1,6-ビスリン酸分子がフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ (fructose1,6-bisphosphate aldolaseまたは単にアルドラーゼ aldolase、EC 4.1.2.13)によりグリセルアルデヒド 3-リン酸 (Glyceraldehyde 3-phosphate、G3P)とジヒドロキシアセトンリン酸(Dihydroxyacetone phosphate、DHAP)に分解される。
準備期の目的産物であるグリセルアルデヒド3リン酸をこの段階で1当量、さらに、次の段階でもジヒドロキシアセトンリン酸から1当量獲得する。
アルドラーゼの触媒する反応は、フルクトース-1,6-ビスリン酸が開裂する方向に対して大きな正の標準自由エネルギー変化(G'° = 23.8 kJ/mol)をもたらすが、実際は細胞内でほぼ平衡状態で、解糖系の制御点にはならない。
なぜなら、細胞内に存在する生成物の濃度が低いときは、実際の自由エネルギー変化が小さく、逆反応が起こりやすくなるためである。
アルドラーゼには2つのクラスが存在する。
I型アルドラーゼは動物や植物に存在し、II型アルドラーゼは菌類や細菌類に存在する。
両者はヘキソースの開裂機構が異なる。
段階5:トリオースリン酸の異性化
前段階でできた2種類の分子のうち、グリセルアルデヒド 3-リン酸は報酬期の最初のステップである6段階目の反応の基質となる。
一方、ジヒドロキシアセトンリン酸はトリオースリン酸イソメラーゼ (triose phosphate isomerase、EC 5.3.1.1)が触媒する可逆的な反応により、速やかにグリセルアルデヒド 3-リン酸に変換される。
トリオースリン酸イソメラーゼは立体特異的に反応の触媒を行うので、D体のみが生成する。
ジヒドロキシアセトンリン酸から変換されてできたグリセルアルデヒド 3-リン酸の炭素1, 2, 3はグルコースの3, 2, 1位の炭素に由来する。
一方段階4で生成したほうの炭素1, 2, 3はグルコースの4, 5, 6位の炭素に由来する。
しかし両グリセルアルデヒド 3-リン酸のそれぞれの位置の炭素は化学的には全く区別がつかない。
この反応により、ヘキソース分子から2当量のグリセルアルデヒド 3-リン酸が生成され、解糖の準備期は終結する。
報酬期
解糖系後半の5ステップを報酬期 (payoff phase)と呼ぶ。
報酬期では2分子のグリセルアルデヒド3-リン酸がピルビン酸へ変換され、グルコース1分子あたり4分子のADPがATPへと変換され、グルコースの自由エネルギーの一部が保存される。
準備期で2分子のATPが消費されているので、解糖系通じてのATPの純益は2分子となる。
またグルコース1分子あたり2分子のNADHが生成される。
段階6: グリセルアルデヒド 3-リン酸の酸化
報酬期の最初のステップでは、グリセルアルデヒド 3-リン酸がグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ (リン酸化) (glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (phosphorylating)、EC 1.2.1.12)の触媒する反応により、1,3-ビスホスホグリセリン酸 (1,3-bisphosphoglycerate)に変換される。
グリセルアルデヒド 3-リン酸のアルデヒド基が脱水素され、1分子のNAD+がNADHに変換される。
グリセルアルデヒド 3-リン酸のアルデヒド結合が酸化されると、標準自由エネルギーが大きく減り、減ったエネルギーの多くはアシルリン酸基に保存される。
アシルリン酸とはカルボン酸#アシル基( R-CO- )とリン酸のエステル結合をもつ物質の総称で、加水分解時のエネルギー放出が極めて大きい(G'^\circ = -49.3 kJ/mol)(→高エネルギーリン酸化合物)。
このエネルギーが次の段階でADPからATPを生成するのに必要である。
Hg2+などの重金属が酵素の活性部位のシステインと反応した場合、酵素反応が不可逆に阻害される。
NAD+は細胞内に限られた量しか存在しないため、NADHが再び酸化されNAD+が絶え間なく供給されなければ反応はストップしてしまう。
NADHが再酸化される反応の例としてアルコール発酵や乳酸発酵がある。
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